モハメド・アリに密着―New Orleans

アリは復活する‼

☆アリの復活劇を速報☆ ”The Greatest Ali”が敗れた。1978年2月15日、ニューヨークのヒルトン・スポーツパビリオンにおいて、モントリオール五輪ライトヘビー級金メダリストのキャリアを持つレオン・スピンクスに判定で敗れて、王座を失った。しかし、これで引退するはずはない。案の定、春に入ると再選のムードが高まり、間もなく、9月15日にニューオーリンズのスーパードームでWBA王座に挑戦することが発表された。㋅も半ば、アリの密着取材を重ねてきたこともあって、アリが何だか身近な存在に感じられ、今度は間違いなく勝つだろうと思った。ヘビー級のボクシングほど、ビジネスライクな世界はない。巨額なお金を動かすには、まだまだアリの存在が大きい。アリは復活する……確信めいたものがあった。そこで、上司の桜井康雄さんに相談した。「アリは復活すると思います。速報でやりましょう。ついでに、アメリカのプロレス・ツアーを取材して、連載をやってはどうでしょう?」「おつ、また仕掛けるか。面白そうだな。いっちょ、行ってみっか!」。これでニューオーリンズへ飛ぶことになった。カメラマンはこれまたTokyoでアリ戦にも深く関わった写真部筆頭デスクのK.Sだった。

☆ニューオーリンズはアリ一色☆ 今度の取材では、過去の経験があるので、あらかじめプレス申請を行なった。ニューオーリンズの街に入ると、なにやらすでに王座に復活したようなムードだった。アリの宿舎はニューオーリンズ・ヒルトンで、開場一周年記念とのことだった。何か出来すぎじゃないの、思わずつぶやいてしまった。……アリと単独で会いたい。これを実現させれば、仕事の9割はしてやったり。公開練習に行ってはチャンスをうかがった。アリはこの時すでにパーキンソン病jと戦っていたという話だ。「試合は無理だ」という主治医ドクター・パチェコの反対意見もあったという話も残っている。しかし、アリはエネルギッシュに口と体を動かし続けた。大イベントの主役で、宣伝マンも兼ねていたのだたら。さてさて、頼みはまたアンジェロ・ダンディー。すっかり顔なじみになっていたので、挨拶しがてら、取材の趣旨を説明した。アンジェロはすぐに身なりの良い、側近のような男を紹介してくれた。「おー、東京から‽ 懐かしいね。何とかするよ」。結局、この時もお願いモードがうまく行って、ニューオーリンズ・ヒルトンの客室最上階のアリの部屋へ案内してもらった。家族全員、お客、ラスベガスから来たというマジシャン……トランプのマジックhで盛り上がっていた。凄いショットが撮り放題だった。こちらは試合の事、これからの事、ちょっとだけ猪木の事などを訊いた。30分ほどで、他の客の相手を始めたので引き揚げた。カメラマンのSさんは嬉しそうだった。「これからAPのオフィスで現像してもらって、良いのを送る。でも間違いないよ」と。

☆頼むから1枚売ってくれ!☆ 写真の現像・焼き付け、そして日本への電送をお願いするAP通信社のオフィスはニューオーリンズの街の中心にあった。現地スタッフははりばるfar east からやって来た、アメリカは慣れていないので大変だろう、的な接し方だった。「頼みがあったら遠慮なく言ってくれ」と。10,分後である。現像にかかっていた写真スタッフが顔色を変えてダークルームから出て来た。現像したてのネガフイルムを握りしめて。Sさんが私を小声で呼んだ。「あのさあ、1カット30ドルでどうかって話なんだ」「えっ⁉ 30ドルって⁉」「だからね、アリの部屋での写真をさあ、是非ほしいってことなんだ」「さあ、それはねえ。相談されても何とも。やっぱり担当のSさんが判断されれば……」。少々、気まずい雰囲気となったが、APのカメラマンも職人。「会社の手前、無理」と告げると、さっと引いた。「あんたたち、great な仕事をしたな。アリのように」。ちょっとだけ複雑な思いが残った。その夜、フレンチクオーターに繰り出した。ジャズ、フオーク、様々なジャンルの音楽を肴に、ビール、バーボンを何倍も。時には酒の助けも必要だぜ……。

☆祭りの後……☆ 「アリ vs スピンクス」――The Great Rematch と銘打たれた試合は、スピンクスのパンチが軽いので、アリが間違っても倒れることはないだろう、何か安心感のようなものを感じていた。先入観念かもしれないが、試合は淡々と進んだ感じで15Rを終え、アリの判定勝ちとなった。予定通り、とは言えないのだろうが、自分の中では何となく……。もう一度、試合後のアリに会いたい。スーパードームからニューオーリンズ・ヒルトンに急いだ。ロビーはごった返していた。無理を承知で、エレベーターに乗り、アリの宿泊階で降りた。廊下には顔見知りの取り巻きがいた。「ちょっとでいいから入れてくれないか」「今日は無理だ」「そこを何とか」……押し問答していると、ニューオーリンズ警察の制服に取り囲まれ、非常口へ強制移動させられてしまった。これ以上は無理……ロビーに降りると、日本人の男に声を掛けられた。「アリはどうしてますかね?」。名刺をもらった。作家の沢木耕太郎、とあった。少しだけ立ち話をして、別れた。祭りの後の空虚感……フレンチクオーターへ行った。相変わらずのお祭り騒ぎだった。アリの王座復活とは、あまり関係なさそうだった。

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