M資金への甘い? 誘い

☆財界とのコネクション☆ この項はトウスポ退社直後の話である。越中島のスポニチビルへの移転を前に退社していた。その後はベースボールマガジン社の誘いで、アメリカンフットボール・マガジンを立ち上げて、編集長となった。フットボールの経験もなく、お宅でもなかったので、さほどの知識もなかった。たた、日本にもプロ組織が生まれても良さそうだ、と思い、企業フットボールに注目していた。というより、仕掛けを考えていた、といった方が正確かもしれない。この点に当時のベースボールマガジン社の副社長は興味を持ったようだった。雑誌にとって広告は重要な要素である。私のアドバンテージは、ちょっと前に知り合って、近い関係になっていた、日大の篠竹幹夫監督とのつながりだった。独自の企画として、篠竹監督と、チームを持つ企業の経営者との対談を展開した。オンワード、レナウン、ニッサンプリンス、ニチイ、アサヒビール、NECシステムズ、鹿島建設……対談企画が進む中で、オーナー会なるものも誕生させた。近い未来に日本のプロリーグを立ち上げるための基盤になってくれそうな顔ぶれだった。

☆四谷の小料理屋にて☆ 私の行動をどこかで誰かが注視していたようだった。ある日、知り合いを通じてアプローチが来た。時々、体を楽にしてもらっていた、コンディショナーのYさんが、「私の所のお客さんが白石さんに会って、話を聞きたいと言っているんですが、時間取れませんか?」。詳しくは分からないが、大きな融資の話らしい。恐らく、私の財界とのコネクションを何かの参考にしたい、ということなのか? 「会うだけなら、会ってみましょうか?」。数日後、四谷の小料理屋で会う約束となった。某月某日夕刻、約束の場所へ赴いた。小料理屋の玄関に入ると、仲居さんが出て来て、「いらっしゃいませ、Tさんがお部屋でお待ちです」。案内されて部屋に入ると、待っていたのは妙齢な女性であった。挨拶をして席に着いた。ビールを注がれて一口、二口、改めて女性に目をやると、えらく上品な佇まいを感じさせた。どこかのお嬢様、時代劇なら、”やんごとなき”となるのか。「さて、」とこちらが切り出す前に、Tさんは微笑みを浮かべながら、「実は白石さんの取材ぶり、パイプを拝見させていただいておりました。是非、当方の企画案件と結び付けさせていただけないか、と考えました」「というと?」「あまり大っぴらにはできないのですが、大蔵省の絡んだ産業振興基金がございまして、こちらが選ばせていただいた企業様に特別融資という形でご融資したいというお話です」「私などの役割が何かあるのですか?」「そこは白石さんの取材ルートで、大きい企業の経営者様直々にアプローチしたいと考えております」「大きい企業は、それぞれ大きい銀行が付いていますよね?」「そこですね、銀行を通せば、お金を動かすのに縛りがかかります。こちらの資金を運用すれば、事業を自在に展開することができるというものです」「融資ったって、利子は付きものでしょう?」「表向きはそうですね。しかし……」

schoolウルトラ000億円の融資、謎の美女☆ 謎の美女、Tさんとの話は佳境に入った。「こちらの選ばせていただいた企業の経営者様の個人口座に5000億円を振り込む。このうちの2500億円をどこかの銀行の定期預金にする。5年、10年、今の景気状況なら、定期の利子はかなりのものになるでしょう。元金の5000億円は労せずに……となるでしょう」「で、Tさんたちはどこでビジネスにするのですか?」「私たちは我が国の産業振興のための縁の下役。アメリカのさる筋、日本のさる筋からの出先機関と考えてください」「そうですか。私にはとてつもない金額ですね。どうしたものやら」「白石さんは企業の経営者様に、それとなくお話をしていただき、ご興味がおありとなれば、私たちが出向きます」。美女の話に相づちを打ちながら、上手くお酒も勧められて、何だかほんわりとなっていた。美女が少し近づいて、声を落として言った。「お話が成立しましたら、白石さんには最低500万円の謝礼を差し上げるつもりです」。この後、どうするんだ? やっぱり、もう一軒行くのか? もう一度、何気なくTさんの顔を見た。その時、Tさんは何気なく前髪をかき上げるような仕草をした。左手の手首の内側がこちらを向いた。えッ⁉ 声には出さなかった。何と、Tさんの手首には何本もの、傷跡が走っていた。……そうなのか、これは訳ありどころではない。酒がちょっと醒めた。「分かりました。何とか連絡して見ましょうか。ご期待に沿えるかどうか分かりませんが」「ありがとうございます。お電話お待ちしております」。Tさんは腕時計を見た。また、手首の傷跡が見えた。「まだ時間はお早いようですが、この後、何かご予定がありますの? 近くに知っているお店がありますのよ」「ありがとうございます。せっかくですが、まだ頼まれ原稿が残っておりまして」「では、今日のところはこれにて。お話を聴いていただき感謝申し上げます」。……5000億円の謎の融資、アサヒビールとNECシステムズにはこっそり話した。両社とも専務レベルで、「面白そうだから、会ってみようか」となった。Tさんに連絡した。大変に感謝された。そうか、500万入ったらどうしようか? なんて勝手な、狸の想像もしかけたが、その後なぜかTさんからの連絡は途絶えた。後日、政治の裏側でフィクサ―役も、とも言われていた、徳間書店の徳間康快社長に会った時に、この話をした。すると、「白石さん、5000億なんて話になったら、邪魔になった人間は簡単に消されるよ。川に浮くことになるぞ。この話だけは近寄らない方が身のためだな」と。後日、知り合いのコンディショナー、Yさんが声を潜めて言った。「あのTさん、どうしました? 連絡ありますか?」「いや、2~3回電話でやり取りした後……それっきりだ。500万惜しかったな」「いや、何か、行方不明だとかっていう話なんですよ」。深入りしなくて良かった。背中にちょっとだけ寒気を感じたような気がした。

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