今度はヘビー級プロ空手
☆全米プロ空手ヘビー級王者☆ アリ戦を敢行したが、周囲の期待が大きすぎたこともあって、様々な批判も浴びることになった猪木。5億、6億、7億……多額の借金も背負った。しかし、そんなことを感じさせないくらい、エネルギッシュに走り続けていた。いや、走らなければ団体の存続も危ぶまれる状態でもあった。所属している日本人レスラー、また、海外から「日本で一稼ぎ」をもくろむ外人レスラーにとっても、新日本の経済状態は重要。猪木はフアンの注目を集め続けなければならなかった。アリ戦の次のビッグマッチ、また少しでも抱えている負からの脱 却 の手がかりも兼ねて、異種格闘技世界一決定戦として、全米プロ空手ヘビー級王者、ザ・モンスターマンとの対戦が打ち上げられた。策士、新間寿営業本部長のが牽引車で、我が上司の桜井康雄さんもマスコミとTV解説者の立場で、NET側には栗山プロデューサー……こんな人たちがアドバイザーとして、知恵を絞ったのだ。1977年8月2日、日本武道館。モンスターマンは対戦の10日くらい目に来日したと記憶している。新宿の京王プラザホテルで記者会見。ここから、私の密着取材が始まる。こうした取材は何か定番になっていた。「白石、また頼むな」。オーダー主はほとんど上司の桜井康雄さんだった。そもそも、入社一年半は整理部の記者勤務。そこからプロレスを主に扱う第二運動部へ移ったのだが、当時、内外タイムスから移ってきて、ギャンブル部の部長になっていた針ヶ谷さんの口利きがあった。仕事後に飲みに釣れて行かれ、取材記者への転向を打診されていた。この人も井上博社長に買われていたのだった。第二運動部へ移って早々、山田隆部長(日本テレビ解説者。すでに他界。合掌)に喫茶店に呼び出されて、「あんた、英語が少しやれるんだって? 明日、サンマルチノのインタビューやってきて」と告げられた。言われるままに、東銀座の銀座東急ホテルのレストランでインタビューに及んだ。当たり前だが、”人間発電所”ブルーノ・サンマルチノとは初対面。どえらい緊張をしたが、サンマルチノは紳士でこちらがデビュー戦であるのを知っていて、大変協力的。また、立ち合いの百田義善さん(力道山長男。すでに他界。合掌)の時々助っ人もあって。無事終了。編集局に戻って、原稿をかいていると、山田部長が来て、「結構やれるらしね。よっちゃん(善浩氏)がほめていたよ」と。これで、何となく外人係になってしまったようだった。
☆モンスターマンに密着☆ モンスターマン。来日翌日から、取材に張り付くことになった。主な練習場所は代々木駅近く、沖縄空手の剛柔流だった。これは猪木-アリ戦のレフェリーを務めた京都の日本正武館館長の鈴木正文氏(すでに他界。合掌)の手配だった。余談になるが、鈴木氏は空手界の重鎮であると共に、故笹川良一氏の秘書、京都新聞社の経営陣と言った側面も持っていたようだ。異種格闘技で猪木と戦う相手、つい色眼鏡で見てしまいそうだが、真面目で物静かな男だった。京王プラザで目覚めると、目の前の西口公園で軽いジョギング、体操、朝食後、初代タイガーマスク、佐山聡の案内で道場へおもむいた。佐山はこの後の11月14日、やはり日本武道館で行われた”格闘技大戦争”に出場して、アメリカのマーク・コステロKO寸前の敗北で渡米、メキシコでルチャ・リブレと出会って、タイガーマスクでブレイクという経緯を辿る。この時は時々、キックの黒﨑道場で修行して、その異能ぶりが注目されてもいたのだった。モンスターマン、本名エベレット・エディ、ぺンシルバニア出身の空手家。キックボクサー。「最初はボクサーをやっていた。杯の病気をして、その道を断念したんだ」とモンスターマンは静かに語った。背中には肩甲骨に沿って、結構長いメスの跡があった。ある日、代々木の道場で黙々と、モンスターマンが汗を流していると、長身の白人が稽古にやって来た。聞けば、イギリス人で剛柔流の四段。これは格好のネタができた。形だけのスパーリングでも絵になる。そこでモンスターマンにに水を向けた。「写真の対象えだけでもいいので、軽くスパーリングしてもらえないか?」「OK」モンスターマンはイギリス人に近かずくと、「空手のルールでいいかい?」。二人のスパーリングが始まった。しゅつ、しゅつ、ビシッ! 道義が空を切る音が室内に響いた。肉体がこすれ合って火花が飛ぶようにも見えた。イギリス人の四段も凄いが、モンスターマンも強い。全米プロ空手ヘビー級王者。どんな規模の大会なのか、確かめようもなかったが、強いのは間違いなかった。相手は初対面の空手で、兼ねてからスパーリングパートナーを依頼していたわけだはなかった。佐山もびっくりしていた。「白石さん、やばいね。本当に強いよ」。新聞には事細かに、ありのまま書いてしてやったり、と思っていた。しかし、他社の反応はイマイチだった。ハプニングの現場に都合よくカメラマンもいて、克明なレポート……どうしても最初から仕込んだ……と受け取られてしまったのかもしれない。モンスターマンの招聘は興行的に成功だった。異種格闘技戦、猪木のセメント路線は軌道に乗っていくことになる。
コメント